分析には、Kaggleで公開されているデータセット「Machine Predictive Maintenance Classification」(`shivamb/machine-predictive-maintenance-classification`、10,000件、ライセンスCC0-1.0)を使用しています。1行が1回の稼働記録にあたり、製品グレード(L/M/H)、気温、プロセス温度、回転数、トルク、工具摩耗の6つの説明項目と、故障の有無・故障種別が収録されています。なお元データには、故障フラグと故障種別が食い違う行が27件(故障フラグが立っているのに種別が「故障なし」の9件と、その逆の18件)含まれていたため、集計の一貫性を確保する目的でこれらを除外し、9,973件を分析対象としました。

[ダッシュボード全体]

全体像 ― 故障はわずか3.3%、だからこそ予兆が重要

分析対象9,973件のうち、故障が発生したのは330件。故障率は3.31%です。裏を返せば96.7%は正常稼働であり、故障は「めったに起きないが、起きると産業ライン全体が止まる」典型的な事象です。

  • - 総稼働記録数: 9,973件
  • - 故障件数: 330件(故障率 3.31%)
  • - 故障種別: 4種類(熱放散故障・電力故障・過大ひずみ故障・工具摩耗故障)

このように故障データが極端に少ない状況では、故障そのものを数えるより、「正常時と故障時で運転条件がどう違うか」を比較したほうが実務上の示唆が得られます。

正常時と故障時で最も差が出た指標はトルクと工具摩耗

まず、故障が起きた330件と正常だった9,643件で、各指標の平均値を比べました。

指標

正常時の平均

故障時の平均

トルク

39.62 Nm

50.40 Nm

+27.2%

工具摩耗

106.67 分

144.51 分

+35.5%

機械出力

6,243.7 W

7,305.4 W

+17.0%

温度差(プロセス温度−気温)

10.02 K

9.39 K

−6.3%

回転数

1,540.4 rpm

1,496.2 rpm

−2.9%

差が大きいのは工具摩耗(+35.5%)とトルク(+27.2%)の2つです。一方、気温そのもの・プロセス温度そのものは正常時と故障時でほとんど変わりません(いずれも差は0.3%以内)。「機械が熱い=危ない」という直感的な理解は、少なくともこのデータでは成り立たないということです。

代わりに効いてくるのが、プロセス温度と気温のです。差が小さいということは、機械が発した熱を周囲へ逃がせていない状態を意味します。単体の温度ではなく温度差を見る、というのがこのデータから得られる最初の実務的な学びです。

予兆が最もはっきり出るのは工具摩耗 ― 200分が分かれ目

工具摩耗を20分刻みに区切って故障率を並べると、非常にはっきりした「崖」が現れます。

[工具摩耗20分刻みの故障率]

工具摩耗

稼働件数

故障件数

故障率

0〜179分(9つの区分の合計)

8,258件

176件

2.13%

180〜199分

916件

32件

3.49%

200〜219分

658件

88件

13.37%

220〜239分

127件

30件

23.62%

240〜259分

14件

4件

28.57%

179分までは、どの区分も故障率は1.5〜2.5%程度でほぼ横ばいです。ところが200分を超えた瞬間に13.37%へ跳ね上がり、220分を超えると23.62%、240分以上では28.57%に達します。工具摩耗200分未満(2.27%)と200分以上(15.27%)を比べると、故障率は約6.7倍です。

「200分」という目安の読み方

この200分という数字は、本記事で扱ったデータセットから算出した目安です。20分刻みで故障率を集計し、直前区分(180〜199分=3.49%)から次の区分(200〜219分=13.37%)へ3.8倍に跳ね上がる点を境界と判断しました。実際の設備では工具の材質・加工対象・切削条件によって閾値の位置は変わるため、自社データで同じ集計を行い、自社の「崖」がどこにあるかを確かめる必要があります。重要なのは200分という数字そのものではなく、「摩耗と故障率の関係は比例ではなく、ある点を境に急上昇する」という形のほうです。

トルクは「高すぎても低すぎても危ない」U字カーブ

トルクは、工具摩耗のような単調な関係ではありません。

[トルク帯別の故障率]

トルク帯

稼働件数

故障件数

故障率

20Nm未満

228件

34件

14.91%

20〜29Nm

1,343件

6件

0.45%

30〜39Nm

3,358件

19件

0.57%

40〜49Nm

3,478件

61件

1.75%

50〜59Nm

1,328件

110件

8.28%

60Nm以上

238件

100件

42.02%

60Nm以上では実に42.02%、つまり2.4回に1回が故障しています。同時に、20Nm未満という「軽すぎる」領域でも14.91%と高い。中間の20〜39Nmが最も安全(0.5%前後)で、両端に向かって故障率が上がるU字型です。

トルクの異常な低下は、負荷が抜けている=機械が想定どおりに仕事をしていない状態を示します。「値が高いときだけ警報を出す」という片側だけの閾値設定では、この左側の危険域を取りこぼしてしまいます。監視ルールを組むなら、上下両方に閾値を置くべきだという示唆です。

回転数と温度差 ― 熱がこもるパターンを捉える

回転数も同じくU字の傾向を示しますが、危険度は低回転側に大きく偏っています。

[回転数帯別の故障率]

回転数帯

故障率

1300rpm未満

23.22%

1300〜1399rpm

11.40%

1400〜1499rpm

1.22%

1500〜1599rpm

0.51%

1600〜1799rpm

0.45%

1800rpm以上

5.03%

最も安全なのは1500〜1799rpmの領域(0.5%前後)で、1300rpmを下回ると23.22%と約46倍にはね上がります。

温度差も同様に、小さいほど危険という結果でした。

[温度差帯別の故障率]

温度差(プロセス温度−気温)

故障率

8.0K未満

15.46%

8.0〜8.4K

17.17%

8.5〜8.9K

6.08%

9.0〜9.4K

2.06%

9.5〜9.9K

2.11%

10.0K以上

2.21%

9.0K以上ではおおむね2%台で安定しているのに対し、8.5Kを下回ると6.08%、8.4K以下では15〜17%台まで上がります。そして注目すべきは、温度差と回転数を組み合わせたときです。温度差8.6K未満かつ回転数1380rpm未満という条件に当てはまる103件は、103件すべてが故障していました(故障率100%)。うち100件は熱放散故障です。単独の指標では「危ないかもしれない」程度でも、2つを重ねると確定的な危険信号になる、という典型例です。

故障種別ごとに、見るべき指標は違う

故障を種別ごとに分けると、それぞれ異なる指標が前兆になっていることが分かります。

[故障種別別の発生件数]

故障種別

件数

構成比

平均温度差

平均回転数

平均トルク

平均工具摩耗

熱放散故障

112件

33.9%

8.2K

1,338 rpm

52.8 Nm

107.3分

電力故障

95件

28.8%

9.9K

1,764 rpm

48.5 Nm

101.9分

過大ひずみ故障

78件

23.6%

10.2K

1,354 rpm

56.9 Nm

208.2分

工具摩耗故障

45件

13.6%

9.9K

1,571 rpm

37.2 Nm

216.6分

  • - 熱放散故障(最多): 温度差8.2Kと全体平均10.0Kを大きく下回り、回転数も1,338rpmと低い。工具摩耗は平均並み。つまり「工具はまだ新しくても起きる」タイプ
  • - 電力故障: 回転数1,764rpmと突出して高く、トルクも高め。高速回転と高トルクが同時に来ると発生する
  • - 過大ひずみ故障: 工具摩耗208.2分・トルク56.9Nmと、両方が同時に高い。実際、工具摩耗×トルクの積が11,000を超える125件では81.6%が故障していました
  • - 工具摩耗故障: 工具摩耗216.6分と最も高い一方、トルクは37.2Nmと全体平均より低い。摩耗だけで起きる

同じ「故障」でも、熱放散故障の予兆は温度差、電力故障の予兆は回転数、過大ひずみ故障の予兆は摩耗とトルクの組み合わせ、と見るべき指標がまったく異なります。単一の総合スコアで警報を出すのではなく、故障モードごとに監視ルールを分ける根拠になるデータです。

製品グレードによる差 ― 同じ条件で回しても壊れやすさが違う

[製品グレード別の故障率]

製品グレード

稼働件数

故障件数

故障率

低グレード(L)

5,984件

231件

3.86%

中グレード(M)

2,991件

79件

2.64%

高グレード(H)

998件

20件

2.00%

低グレード品の故障率は高グレード品の1.93倍です。ここで重要なのは、この差が「使われ方の違い」では説明できないという点です。グレード別に平均運転条件を確認すると、工具摩耗はいずれも107〜108分、トルクは約40Nm、回転数は約1,538rpm、温度差は約10.0Kとほぼ完全に一致していました。同じ条件で回しているにもかかわらず結果が違う、つまり素材そのものの耐性の差が故障率に表れているということです。

グレードごとに耐えられる限界が異なるのであれば、点検周期や警報の閾値もグレードごとに変えるのが合理的、という運用判断につながります。

まとめ

  • - 正常時と故障時で最も差が出るのは工具摩耗(+35.5%)とトルク(+27.2%)。気温・プロセス温度そのものは差がほとんど無く、見るべきは温度「差」
  • - 工具摩耗は200分を境に故障率が2%台から13.4%へ急上昇し、200分以上は200分未満の約6.7倍(本記事のデータでの目安です)
  • - トルクは高すぎても低すぎても危険なU字カーブ。60Nm以上で42.0%、20Nm未満でも14.9%
  • - 温度差8.6K未満かつ回転数1380rpm未満に該当した103件は、全件が故障(熱放散故障が100件)
  • - 故障種別ごとに前兆となる指標は異なる。熱放散は温度差、電力は回転数、過大ひずみは摩耗×トルク、工具摩耗故障は摩耗単独
  • - 製品グレード別の故障率はL 3.86%/M 2.64%/H 2.00%。運転条件はほぼ同一のため、差は素材の耐性差と考えられる

なお、温度差9.0K以上・トルク25〜55Nm・工具摩耗200分未満という3条件をすべて満たす6,892件(全体の69%)では、故障はわずか1件(0.015%)でした。「危険な条件」を特定することは、同時に「安心して回してよい条件」を特定することでもあります。

CSVの数字だけでは見えてこないもの

もし今回のようなデータを、ローカル保存やファイルサーバー中心のExcel運用でそのまま眺めていたら、「200分という閾値の存在」や「トルクのU字カーブ」「温度差と回転数を重ねたときに現れる100%の危険域」に気づくのは簡単ではありません。1万行のセンサー値は、行を眺めているかぎりただの数字の羅列です。故障はわずか3.3%しか含まれないため、フィルターで故障行だけを抜き出しても、それが「正常時と比べて何が違うのか」までは分かりません。

Power BIで可視化すると、こうした構造がひと目で分かるようになります。工具摩耗を20分刻みに区切って故障率を並べれば「崖」の位置が視覚的に確定し、トルク帯別に並べればU字の形がそのまま現れます。「どこから危ないのか」という保全現場の問いに、感覚ではなく形で答えられるのが可視化の最大のメリットです。

さらにPower BIのスライサー(フィルター機能)を使えば、製品グレードを「低グレード(L)」だけに絞り込んで閾値がどう変わるかを確認したり、特定の故障種別だけを表示して前兆指標を掘り下げたりと、知りたい切り口に応じて自由にデータを掘り下げることができます。保全担当者が自分の担当設備・担当ラインの条件でセルフサービスに確かめられるようになる点も、ダッシュボード化の大きな価値です。

このようにPower BIは、単なる「グラフ作成ツール」ではなく、複数のデータソースを統合し、継続的に更新・活用できる分析基盤として機能します。今回のような設備センサーデータに限らず、生産実績・品質検査・在庫・原価といった製造業のあらゆるデータを、同じ考え方で可視化・分析することが可能です。

UDATAでは、こうしたデータ分析・ダッシュボード構築の支援を行っています。「設備のログは取っているが活用できていない」「点検周期を勘ではなくデータで決めたい」「CSVはあるが可視化まで手が回っていない」といったお悩みがございましたら、ぜひこちらからお問い合わせください▶ UDATAへのお問い合わせ