はじめに
次の2つのデータには、かなり強い相関があります。
ビールの売上
アイスクリームの売上どちらも、夏に増えます。
さらに別のデータを見てみると、
アイスクリームの売上
溺死事故の数にも同じように強い相関が見られます。
実際に月別データを並べて計算すると、アイスクリーム消費量と溺死事故数には強い相関(相関係数 0.8以上)が見られます。
ここで一瞬だけ考えてみてください。
アイスクリーム売上 ↑
溺死事故 ↑もしこの2つが同じタイミングで増えるなら、
アイスクリーム
↓
溺死事故という関係があるのでしょうか。
もちろん、そんなはずはありません。
それでも私たちは、こう考えてしまいます。
・同じタイミングで増えている
・グラフの形が似ている
この2つが揃うと、脳は無意識に
「関係がある(=原因がある)」
と判断してしまいます。
実際には、ただ同時に動いているだけでも、私たちはそこに因果を見出してしまいます。
この記事では、実際の公開データを見ながら
相関関係と因果関係の違い
を「構造」と「人の認知」の両方から考えていきます。
データを見ると、本当に一緒に増えている
まず、溺死事故のデータを見てみます。

溺死事故も、気温と同様に夏にピークを迎える季節パターンを持っています。
次に、アイスクリームの消費量です。

図:アイスクリーム販売量(季節推移)
出典:日本アイスクリーム協会
こちらも、夏にピークを迎える明確な季節パターンが見られます。
データを月ごとに並べて見ると
アイスクリーム売上 ↑(夏にピーク)
溺死事故 ↑(夏にピーク)という非常によく似た季節パターンが見えてきます。
ここで多くの人は、次のように考えてしまいます。
アイスクリーム
↓
溺死事故しかし、この2つの間に直接の因果関係はありません。
では、なぜこのような相関が生まれるのでしょうか。
「アイスクリームが売れると、溺死事故が増える」
という関係があるようにも見えます。
実際、データだけを見ればそう解釈することもできてしまいます。
しかし、この解釈には重大な問題があります。
本当の原因は「別のところ」にある
ここで重要なのが
共通要因という考え方です。
2つの現象が同時に起きているとき、
実は両方を動かしている別の原因
が存在することがあります。
今回の場合、その要因は
気温です。
実際に、日本の月平均気温を見てみます。

図:東京の月平均気温(2025年)
出典:気象庁 気象データ※グラフは気温(℃)の月別平均をもとに作成
このグラフを見ると
夏 → 気温が高い
冬 → 気温が低いというはっきりした季節変化があります。
そしてここが重要です。
この気温の動きと、アイスクリームの消費の動きは、ほぼ同じ形をしています。
さらに、溺死事故も同じタイミングで増減します。
つまり、3つのデータを並べると
気温 ↑
├ アイスクリーム売上 ↑
└ 溺死事故 ↑という“同時に動いている構造”が見えてきます。
ここで初めて、因果ではなく構造で理解できます。
ビール ↔ アイス ↔ 溺死の関係は
すべて「気温」という共通要因によって動いている
という構造なのです。
相関関係と因果関係
ここで整理しておきたいのが
相関関係と
因果関係の違いです。
相関関係とは
2つのデータが
同じ傾向で動くことを意味します。
しかし
相関関係
≠
因果関係です。
つまり
一緒に動いているからといって
原因と結果とは限りません。
今回の例では
気温が複数の現象を同時に動かしている
のです。
見かけの相関をどう見抜くか
では、このような「見かけの相関」をどう見抜けばいいのでしょうか。
方法はシンプルです。
「その関係を一度、分解してみる」ことです。
例えば今回であれば
・季節ごとに分けて比較する
・気温の影響を考えてデータを見る
といった形で、
本当に直接つながっているのかを切り分けます。
もしこの操作によって関係が弱くなったり消えるなら、それは
因果ではなく、共通要因による相関
である可能性が高いと言えます。
重要なのは
関係をそのまま信じることではなく
一度疑って、分解してみることです。
「ビールが売れるとアイスも売れる」の正体
ここで最初の話に戻ります。
ビールが売れると
アイスクリームも売れるという現象も、実は同じ構造です。
ビール ↑
アイス ↑これは
ビール → アイスという関係ではありません。
実際には
気温 ↑
├ ビール売上 ↑
└ アイス売上 ↑という構造です。
つまり、両方とも同じ要因によって動いているだけなのです。
有名な「偽相関」の例
このように、実際には関係がないのに強い相関が現れるケースは珍しくありません。
統計の世界では、こうした関係を
偽相関(Spurious Correlation)
と呼びます。
有名な例の1つに、次のデータがあります。
マーガリン消費量
↓
アメリカ・メイン州の離婚率この2つのデータには、実際に非常に高い相関が観測されています。
しかし当然ながら
マーガリン → 離婚という因果関係があるわけではありません。
偶然、同じ時期に似た動きをしていただけです。
この例は少し極端ですが、データ分析では同じようなことが頻繁に起きます。
動きが似ている
↓
原因がある(と解釈してしまう)と考えてしまうと、誤った解釈につながる可能性があります。
今回の
アイスクリーム売上 ↑
溺死事故 ↑も同じです。
背後には
気温という共通要因があり、両方のデータを同時に動かしているだけなのです。
ビジネスのデータでも同じことが起きる
この問題は、統計の教科書だけの話ではありません。
ビジネスのデータ分析でも
相関を因果と誤解するケース
はよくあります。
例えば
広告費が増えた月は売上が高いというデータがあったとします。
しかしその背景には
・季節要因
・キャンペーン
・新商品の発売
など、別の要因が存在している可能性があります。
もし相関だけを見て
広告費 → 売上と判断してしまうと、誤った意思決定につながるかもしれません。
まとめ
データは嘘をつきません。
しかし、
正しいデータでも、人は簡単に間違えます。
2つのデータが似た動きをしているとき、
私たちはそこに「意味」を見出してしまいます。
しかしそれは、本当に原因なのでしょうか。
それとも、
ただ同じものに動かされているだけなのでしょうか。
この問いを持てるかどうかで、
データの見え方も、意思決定も大きく変わります。
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