はじめに

ダッシュボードは作られているものの、意思決定に十分活用されていないケースも少なくありません。

データ活用や可視化の重要性が高まる中、「とりあえずダッシュボードを作る」という動きは多くの現場で見られます。

しかし、作られたダッシュボードが実際の意思決定に活用されているかというと、必ずしもそうとは限りません。

こうした状況に対して、デジタル庁は「ダッシュボード実践ガイドブック」とともに、ダッシュボード開発のためのデザインテンプレート(Power BI用)を公開しました。

今回公開されているガイドブックとテンプレートは、データをわかりやすく可視化し、関係者間の共通認識を揃え、意思決定の質を高めることを目的としたものです。

本記事では、その概要を整理しつつ、テンプレートの具体像にも踏み込みながら、そこから見えてくるダッシュボード設計の前提について考えていきます。

※本記事で紹介している資料は、デジタル庁の公式ページからダウンロードできます:
https://www.digital.go.jp/resources/dashboard-guidebook


デジタル庁の「ダッシュボード実践ガイドブック」とPower BIテンプレート

デジタル庁が公開している「ダッシュボード実践ガイドブック」は、Japan Dashboardや政策データダッシュボードの開発で得られた知見や、有識者の意見をもとに整理・体系化されたものです。

ダッシュボード設計における考え方や、情報設計・レイアウトの原則がまとめられています。

デジタル庁 ダッシュボード実践ガイドブックの構成とカラーパレット例

それに関連して公開されているのが、ダッシュボード開発のためのデザインテンプレート(Power BI用)やカラーテーマなどのデザイン資産です。

ここで重要なのは、これらが「完成されたダッシュボード」ではなく、ガイドブックの設計思想を再現しやすくするための「設計補助」として提供されている点です。

具体的には、以下のような要素が含まれています。

・KPIを中心に据えた基本レイアウト

・一貫した配色ルール(カラーテーマ)

・情報の優先度に応じた配置の型

・Power BI上で再利用可能なテンプレートファイル(.pbit)

これらにより、ダッシュボードをゼロから自由に作るのではなく、「一定の設計原則を保ったまま構築する」ことが可能になります。

また、テンプレートとあわせて、KPIカードやチャート、フィルターなどの構成要素を整理した「イメージ作成ツールキット」も公開されており、設計内容を具体的な画面イメージとして落とし込むための補助も用意されています。


テンプレートは「完成形」ではなく「設計を支える枠組み」

テンプレートというと、「そのまま使える完成形」をイメージしがちです。

しかし今回のPower BIテンプレートは、意思決定フローをそのまま提供するものではありません。

むしろ、

・どの情報を先に置くべきか

・どのような粒度で情報を整理するか

・どの順序で理解が進むか

といった設計の考え方を崩さないための「枠組み」として機能しています。

Power BIテンプレートを適用したダッシュボード例(KPIカードとグラフ配置)

そのため重要なのは、「テンプレートを使うこと」そのものではなく、「なぜこの構造になっているのか」を理解することです。


「作ること」が目的になっていないか?

一方で、ダッシュボードに関する取り組みでよく見られるのが、「作ること」自体が目的化してしまうケースです。

見やすく整えられたグラフや数値が並んでいても、それが意思決定につながっていなければ、実務上の価値は限定的です。

ダッシュボードは“見られている”が、“使われていない”。
その結果、意思決定は別の資料やExcelで行われていることも少なくありません。

例えば、

・会議で画面は開かれるが議論には使われない

・定例資料として貼られるだけで参照されない

・結局、別のExcelで意思決定している

こうした状態は、多くの現場で起きています。


ガイドブックに含まれている「設計の前提」

今回のガイドブックを読み解く上で重要なのは、単なる可視化のテクニックではなく、その前提にある設計の考え方です。

ガイドの中では、

・誰が利用するのか

・どのような意思決定に使うのか

・どの情報を優先的に提示するのか

といった点が、設計の出発点として扱われています。

さらにガイドブックでは、ダッシュボード作成後のチェックリストも用意されており、

「意思決定に必要な情報が提供できているか」

「誤解を生む表現になっていないか」など、

実務レベルで品質を担保する観点も整理されています。

記事内の説明画像

これはつまり、ダッシュボードを「情報を並べるもの」としてではなく、「意思決定を支援するためのインターフェース」として捉えているということです。


Power BIテンプレートの位置づけ

ここまで見てくると、Power BIテンプレートの役割もより明確になります。

それは単なる“便利な雛形”ではなく、「設計前提を維持するためのガードレール」です。

自由に作れるからこそブレやすいダッシュボード設計に対して、

・どこから考えるべきか

・何を優先するべきか

・どのような構造で配置するべきか

といった基準を、テンプレートという形で担保しています。

そのため、このテンプレートの価値は「すぐ使えること」以上に、「設計の再現性を高めること」にあります。

加えて、レイアウトグリッドの考え方により、要素の配置や余白が揃うことで視線の流れが整い、同じデータでも理解のしやすさが大きく変わります。


ダッシュボードは「可視化ツール」ではない

ダッシュボードはしばしば「データを見える化するためのツール」として語られます。

しかし今回のガイドブックとテンプレートが示しているのは、それだけでは不十分であるという視点です。

ダッシュボードは、見るためのものではなく、決めるためのもの。

どの情報を見て、どのように判断し、次のアクションにつなげるのか。

その一連の流れを設計することこそが、ダッシュボード設計の本質と言えるでしょう。


まとめ

デジタル庁が公開したPower BIテンプレートとダッシュボード実践ガイドブックは、ダッシュボード設計を効率化するだけでなく、その前提となる考え方を具体的な形で示しています。

テンプレートを活用する際には、その背後にある設計意図にも目を向けることで、単なる可視化にとどまらない、実務に活きるダッシュボードを構築することができます。

ダッシュボードを「作る」から「使われる」ものへ。

その転換のヒントが、このテンプレートとガイドブックには含まれていると言えそうです。


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