はじめにデータアナリストやマーケター、ビジネス担当者が日々業務でデータ分析をする中で、多くの企業ではBigQuery(BQ)などのデータウェアハウスを活用しています。しかし、「SQLを直接書く必要がある」「欲しいデータを取得するためにエンジニアに毎回依頼が必要」といったハードルに悩まされている担当者も多いのではないでしょうか。そんな課題を解決する手段として、Slack上で簡単に日本語で質問するだけで、必要なデータが即座に返ってくるような「チャット型」のデータ取得botが注目されています。今回は、Slack、Flask、そしてLLM(大規模言語モデル)を組み合わせて開発されたSlack-BQ連携botを導入するメリットや、その導入効果について解説していきます。Slack-BQ連携botとは?Slack-BQ連携botは、Slackのチャットで日本語の自然言語で質問すると、その内容を解釈し、自動的にSQLクエリを生成してBigQueryへ投げかけ、結果をSlack上に即座に返す仕組みのbotです。たとえばSlackに「2月の売り上げを教えて」と投稿するだけで、botがSQLを自動生成し、BQのデータから結果を取得してスレッドで返してくれます。これにより、エンジニアやデータアナリストの介在を最小限に抑え、データ取得にかかる時間を劇的に短縮します。技術構成(概要)Slack-BQ連携botの主な技術要素は以下の通りです。Slack App(Slack APIを利用してSlack上のやり取りを管理)Flask(PythonをベースとしたWebフレームワークでSlack AppとBigQueryを繋ぐ)LLM(大規模言語モデル)(Slackの日本語質問をSQL文に変換する自然言語処理を担当)Google Secret Manager(認証情報の安全管理)BigQuery(BQ)(データウェアハウスとしてデータを保持・管理)技術的な詳細についてはここでは割愛しますが、基本的にはSlackから受け取ったテキストをLLMがSQL文に変換し、それをBQに送信して得られたデータをSlackに返す、というシンプルな流れで実現されています。BQから取得したデータをそのままSlackのスレッドに返すだけでなく、スプレッドシートに転記した上でそのURLを返すことも可能です。よりセキュアにする場合はGoogleCloudStorageなどにデータを保存した上で、その署名付きURL(閲覧の有効期限を設定可能)を返すなどの対応も行うことが出来ます。Slack-BQ連携botを導入するメリット1. データ取得の迅速化・簡略化Slack-BQ連携botを導入することで、社内メンバーはSQLを書いたりエンジニアやデータチームに依頼する必要がなくなります。データを取り出すためのハードルが劇的に下がり、特に非エンジニアでも必要な情報を簡単に取得できます。通常、「2月の売り上げ」というデータを取得する際には、依頼からSQLの作成、データ抽出、結果の受け取りというフローで、早くても数時間〜1営業日程度かかる場合が多いですが、このbotを活用すると、数十秒〜1分以内でデータ取得が完了します。データ抽出と同時に作成したSQL文も出力することでエンジニアやデータチームがレビューを行うことも可能です。また、SQLがおおよそフォーマット化できる場合は日付やid等のパラメータのみをSlackワークフローで受け取り、それらを元に動的にクエリを作成することも実現できます。2. エンジニア・データアナリストの業務負担を大幅に削減SQLが書けない担当者からの依頼が重なれば、データエンジニアやアナリストの業務負荷が増え、本来の分析業務に集中する時間が奪われることも少なくありません。しかしこのbotを導入すれば、頻繁に求められる定型的なデータ取得業務を大幅に自動化でき、専門人材の稼働を有効活用することが可能になります。3. 組織全体でのデータ活用促進データが簡単に取得できる環境が整えば、組織内でのデータ活用が活発化します。マーケターや営業など、非エンジニア職も気軽にデータへアクセスできるため、組織全体としてデータドリブンな意思決定が可能になり、生産性や戦略策定の質が向上します。導入事例と効果実際にSlack-BQ連携botを導入したある企業では、営業チームが売上データを頻繁に取得する必要がありましたが、SQLが書けないため毎回エンジニアに依頼をしていました。その結果、エンジニアチームの負担が増え、結果を得るまでに時間がかかる状況にありました。このbotの導入後、営業チームはSlack上で直接データを取得可能になり、エンジニアチームの業務依頼が80%以上減少しました。営業担当者自身も欲しい情報が即座に手に入るため、迅速な意思決定ができるようになり、売上分析の頻度が増加、ビジネス上の課題発見や施策改善がスピードアップしました。おわりにSlack-BQ連携botは、データ取得の手間を大幅に省き、組織全体の生産性や意思決定速度を飛躍的に高めます。特にSQLを書くことが困難な部署と、データを提供する立場の部署がある企業において、その効果は非常に大きいと言えます。データ活用が企業競争力を左右する現代において、チャットベースでデータ取得を可能にするこのbotの導入は、企業がデータドリブンな体質へ変革していくための第一歩となるでしょう。